俳優渡辺謙氏を首都ワシントンに迎える!


日米の映画界で一際脚光を浴びている渡辺謙氏は、2003年12月に公開した『ラストサムライ』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、また、今年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、音響編集賞の4部門にノミネートされ、音響編集賞を受賞した『硫黄島からの手紙』でも好演し高い評価を得ている。

渡辺氏は、今年、同賞のプレゼンテーターとなり話題となったが、昨年、日本で公開された「明日(あした)の記憶(MEMORIES OF TOMORROW)」で、エグゼクティブ・プロデューサーを務め、若年性アルツハイマー病を患う主役を演じ、この映画をさらにプロモートするために、今回ワシントンを訪れた。

今年4月から始めたワシントン商工会主催の邦画上映会の一環として、今回は、日本大使館と共催で、5月14日(月)、スミソニアン フリアー・ギャラリー内、メーヤー講堂に同氏を招いて特別企画上映会を開催した。

同講堂の座席総数が325席(商工会分150席、大使館分135席、スミソニアン分40席)と限られていたため、商工会としての応募は申し込み先着順としたが、午後7時からの上映分はあっという間に満席となった。 当初、一回のみの上映の予定であったが、鑑賞希望者が多数であったため、渡辺謙事務所とスミソニアンのご厚意から、同日午後3時から追加上映会開催の機会を頂き、商工会としては会場への到着順を優先するご案内とした。 追加上映会もほぼ満席の状態で、8割以上が米国の方で占められていた。

二回の上映会で、渡辺謙氏は冒頭挨拶を行い、後半の上映後には、Q&Aの時間が設けられ、多くの質問が寄せられ熱心に一問一答が繰り広げられた。その間の真摯な応対ぶりや物腰に接し、同氏の率直で気取らない人柄を垣間見た気がした。

後半の上映会の後、Q&Aで登壇した渡辺謙氏に大きなスタンディング・オベージョンが起こり暫く拍手が鳴り止まず、また、退場の際にも同様の喝采が沸き起こった。ご当人は、歓迎の熱烈振りに苦笑し少々気恥ずかしく戸惑った様子であった。加藤大使ご夫妻はじめ、ノーマン・ミネタ元運輸長官ご夫妻、アメリカ映画協会関係者が参列する中、日本のメディア報道陣も数多く参加し、テレビカメラの取材も活発に行われていた。

映画の中では、広告代理店に勤める佐伯雅行(渡辺謙、50歳を想定)が、働き盛りのサラリーマンを突然襲う若年性アルツハイマー病に冒され、こぼれ落ちる記憶を必死に繋ぎ止めようとあらゆる事柄をメモに取り、闘い始め、毎日会社で会う仕事仲間の顔や、通い慣れた取引先の場所が思い出せなくなり、知っているはずの街も突然“見知らぬ風景”に変わっていく。

夫の病を懸命に受け止め、慈しみ、いたわる妻、枝実子(樋口可南子)は共に病と闘い、来るべき時が来るまで彼の妻であり続けようと心に決める。最後には、妻の存在すら夫の記憶から消えていくという現実が訪れるが、途中劇的に快復に向かうのではないか、いや向かって欲しいとの微かな願いも叶わず、空しくやるせない気持ちを抱いたのは私だけではあるまい。

医師(及川博光氏)から、アルツハイマーは20歳台からでも発病する可能性のある病気であることを説明されると同時に、自分の生年月日を問われ、はじめは憮然とした態度で医師に反発する。さらに、数枚のカードに描かれた絵を記憶し後で思い出すことや、数字を覚えて逆に読むこと等々いくつかの質問をされ、まともに答えられないことに苛立ちを覚えるが、医師の父親も同じアルツハイマー病であったことを知らされ、病気に立ち向かう決心をする。 この時の、医師の質問に密かに真剣に答えようとした観客も多かったのではないだろうか。

上映後、アメリカ人の方々から、この映画に感動し、“Very powerful!”なフィルムだったとの言葉が聞かれたのが、私にとって非常に新鮮で印象深かった。

渡辺謙氏は、この作品をはじめて本で読んだ時に、これを是非とも映画化したいとの熱い思いがジワーッと湧き起こり、夜中にその思いを出版社に伝えるべく手紙を書き送ったところ、当初、出版社はまさか俳優の渡辺謙本人が書いた手紙ではなく、誰かが悪戯で送ったものと誤解されたエピソードや、映画化の話しがうまくいく時は、色々なことがトントン拍子に運び決まっていくものであるなど興味深い話を披露して頂いた。また、海外での日本の映画は、戦国時代物、忍者、ホラー、アニメが主流となっているが、「明日(あした)の記憶(MEMORIES OF TOMORROW)」のように、現代の日常の身近な社会的問題を描くテーマを知ってもらうことも必要ではないかとの言葉が印象的であった。

また、渡辺氏は、アルツハイマー病について臨床事例等の学究的なスタディを重ね、関係する療養・医療機関へのヒアリングなどエキスパートからも様々な情報を得た上で、映画の製作に取り組んだと言う。

ワシントンの後、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコでも同映画の上映会が開催される予定と伺ったが、今、米国に最も影響力のある俳優渡辺謙氏が様々な形で日本の文化を発信し、日米の文化交流と相互理解に大きな役割を担って欲しいと心から願うものである。

ワシントン日本商工会
企画行事担当:森永 彰


日本大使公邸歓迎レセプションで
加藤大使ご夫妻と渡辺謙事務所の方々
渡辺謙氏(左から二人目)