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![]() ![]() 『特許におけるフェアネスとパテント・トロール』
山口洋一郎
1.はじめにRader, Fishman & Grauer PLLC 2006年3月まで続いていたフジテレビの「アンフェアなのは誰か」という予告殺人ミステリーは、最後まで黒幕の真犯人がわからない、なかなかよくできたドラマでした。篠原涼子演じる敏腕刑事が、相棒の新米刑事とともに、小説型予告殺人事件、募金型身代金要求事件等、ユニークで脈略のない事件に挑み、それぞれの事件の犯人が死んだり、重症を負ってもまだ事件が続き、一連の事件が最後に思いがけない一人の犯人につながるという凝ったストーリーで、最後まで楽しむことができました。このドラマの中で、犯行現場には、「アンフェアなのは誰か」という犯人からのメッセージが残されており、それぞれの事件において、アンフェアなのは、警察等の国家権力や選別や差別を行う企業でした。 筆者が関わっている法律の世界では、アンフェアなのは誰かといえば、訴訟の相手方であり、政府であり、裁判所です。相手方や許認可行政の行為や不作為に文句があれば、訴訟で片付けようとし、敗訴すれば上訴することになりますが、いずれの場合でも、裁判の場において相手方が如何にアンフェアであるか、下級審の判断が如何にアンフェアであるかを主張し、立証することになります。 ところで、最近、米国においてパテント・トロールと呼ばれる特許所有会社が、大会社を相手に多数の特許侵害訴訟を起こし、多額の賠償額を取ることが社会問題となっております。特許権は、新たな技術を発明した者に、その貢献に対する褒賞として一定の期間独占的にその発明を使用できる権利として国が与えるものです。その発明の価値が高ければ、その独占期間の間、多額の収入が得られることになります。このような特許特有の経済効果のために、更に発明が生み出され、その結果、産業・技術が更に発展するというのが特許制度の果たす役割となっています。特許制度は、どの発明者に対しても、平等にその権利を保障するというのが原則です。ところがパテント・トロールは、その発明に貢献したことはなく、またその発明製品を製造しているわけでもない、ただ単に特許を持っているだけの会社です。パテント・トロールは、その特許発明を使った便利な製品を製造したり、サービスを提供して世の中に貢献している企業に対し、特許権をちらつかせてその製品の販売やサービスの提供を差し止めるぞと脅し、多額の賠償金や和解金をせしめております。このようなことを容認する特許制度は、アンフェアな制度ではないか、と考えられるようになりました。 このように、パテント・トロールの出現を発端として、特許制度は如何にあるべきかという問題提起が行われ、その結果、政府、議会、最高裁を巻き込み、産官学が一体となって特許制度の改革が進められております。本稿においてその一端をご紹介したいと思います。 2.パテント・トロールとは パテント・トロール(Patent Troll)というのは、WikiPediaによれば、「使われていない特許を買いあさり訴訟を次々に起こして賠償金を取る怪物」というような説明がされておりますが、トロール漁船が魚を一網打尽とするように、特許によって会社を一網打尽にするというような意味合いも込められております。パテント・トロールが、どのようにして特許権を取得するのかは明らかではありませんが、特許権者から直接購入したり、倒産した会社の清算競売や、税金控除のために寄付された特許の購入等によって取得しているものと思われます。購入した特許を使用しているターゲットとなる企業を選び、特許権侵害警告状を送り、多額のライセンス料を支払わないと訴訟を起こしてその製品の販売の提供やサービスの提供を差し止めるぞと脅します。米国の特許訴訟費用は非常に高額ですので、脅された企業はパテント・トロールに対してライセンス料を和解金として支払うことになります。パテント・トロールは、多額の和解金を得れば、それを訴訟資金に充て、更にターゲットとなる別の企業を責めるという、始末の悪い輩です。 パテント・トロールによってよく使われる裁判所が、テキサス州のマーシャルという人口2万4千人の小さな町にあるテキサス東部地区連邦地裁です。日本の企業も、このマーシャル市で奮闘しております。マーシャル市は、パテント・トロールだけでなく、一般特許権者もよく特許訴訟に利用する場所です。その理由は、マーシャル市の連邦地裁が1年以内に訴訟を終わらせるいわゆるロケット・ドケットと呼ばれる手続きを行っていて、本来なら数年間に分散される訴訟費用が1年に圧縮されるために、相手方企業に大きなプレッシャーとなり、早期に和解に至るインセンティブとなるからです。また、マーシャル市の市民が陪審員となった場合、彼らに発明の内容を理解し、複雑な特許制度を理解してもらうことは殆ど期待できない上に、一般的な傾向として特許権者=善人、侵害者=悪人という予断があるため、特許権者有利の評決を出す傾向が非常に強いからです。これも、やはり相手方企業にとって、訴訟をしても負ける可能性が高いので、和解に至るインセンティブとなります。 2004〜2005年にかけて、パテント・トロールが起こした訴訟で話題になったのが、携帯型パソコン・ブラックベリー事件とマイクロソフト・ウィンドウズ事件です。いずれも特許権の侵害が認められ、多額の損害賠償額が認められたのですが、特許権の侵害の差止めが行われると、誰もブラックベリーやウィンドウズが使用できなくなってしまうので非常に困る、という事態が生じました。とりわけ2005年秋には連邦政府が、連邦職員は特例としてブラックベリーを使用してもよい、という通達を出した程でした。このことが特許制度改革の動きに拍車をかけることとなりました。 3.パテント・トロールの投げかけた問題提起と業界対立 パテント・トロールの暗躍は、特許制度、訴訟制度そのものの問題点を投げかけることになりました。それをフェア・アンフェアの観点から整理すると、次の通りです。
このように、パテント・トロールの出現は、現行特許制度・訴訟制度のアンフェアな一面を大きくクローズアップする結果となりました。そして、産学共同の下に、連邦政府、議会、最高裁が、このアンフェアな状況を打破するために動いたのです。特に上記(1)の特許侵害差止めについては、米業界を二分する大議論に発展し、議会、最高裁で争われ、最高裁では2006年5月に決着しました。議会では、まだその議論が続いております。(2)の訴訟費用と(3)のフォーラムショッピングは、訴訟制度の問題であり、現在は、特許法を改正して、立証に費用のかかる特許無効理由を全て削除し、フォーラムショッピングを制限する試みが行われております。 ここで、特許侵害差止めの問題点を少し詳しくお話しします。米国特許法では「特許権侵害の差止めはエクイティを適用し裁判所がその裁量により決すべし」とあります。エクイティというのは、後で詳述しますが、当事者のバランスを考慮して裁判所がその裁量によりバランスがとれるように決定するルールです。特許権の侵害があったとき、例えば蔓延する病気を治療する薬剤の量が決定的に足りない等の公益上重要な事情がない限り、特許権の侵害行為の差止めを認める、というのが司法府、行政府、立法府の伝統的な一貫した立場でした。特許権は憲法で認められている「独占権」ですので、例えば住居侵入者を住居者の有無に拘らず排除できるのと同様、特許権者がその発明の使用の如何に拘らず、他人の特許侵害行為を排除することができるのは、特許権者が当然にできる権利であるわけです。従って、特許権の差止めを原則として認めるのがエクイティである、というのが立法、行政、司法の三権の共通した考え方でした。 ところが、パテント・トロールの出現により、その被害者であるマイクロソフトを始めとするIT産業界が、米国特許法の「エクイティ」を適切に運用するようにというロビーング攻勢を議会にかけました。エクイティが適切に運用されれば、上記のブラックベリー事件やマイクロソフト・ウィンドウズ事件のように、仮にその販売差止めが認められると、侵害者は大きなダメージを受ける一方、パテント・トロールはその製品の販売をしていないから、一般消費者も非常に困ります。エクイティにより少なくとも特許権者、侵害者の困る程度のバランスを考慮すると侵害差止めは妥当ではないという結論が出ることになるからです。 一方、バイオ・医薬品業界は、医薬品の開発費用が莫大であるため、侵害差止めが認められないと困ります。その開発費用は、一定の薬効を示す化学物質を、例えば1万個の候補物質の中から1個を選び出す作業に費やされます。そのために数々の試験管実験、動物実験、臨床実験を繰り返し有効な成分を探していくので、莫大な費用と時間がかかるわけです。先発メーカーによって1個の有効物質が選び出されてしまえば、後はこれを製造するだけですので、後発メーカーは労せずにその恩恵に与れることになります。メーカー品医薬の価格が高いのは、医薬の開発費を製品の価格に上乗せして開発費を回収するからで、後発ジェネリック・メーカーの医薬品の価格が安いのは、上乗せする開発費がないからです。医薬品業界としては、特許権が有効なうちは他人にライセンスをせず、他人の侵害は全て排除して開発費の回収に専念したく、特許権の差止めについて「エクイティに基づく裁判所の裁量」などの不確定要素は、絶対に認められないところです。2005年秋、インフルエンザの特効薬であるタミフルの品不足でその特許権者ロシュに技術解放圧力がかかったとき、ロシュは飛躍的増産を約束してこれをかわしたことは記憶に新しいところです。 このように、IT産業界、バイオ・医薬産業界との間で、特許権侵害差止めの制度を巡って、対立が表面化し、これがその後の特許制度改革を阻害する要因になりました。それを解消したのが、最高裁ですが、後で詳しくお話しします。 4.政府の動き 2003年10月、連邦取引委員会(Federal Trade Commission, FTC、日本の公正取引委員会に相当)は、特許制度には予測困難な特許無効理由が多数存在するために特許の有効性に信頼性がないこと、訴訟コストがかかり過ぎること等の現行特許制度の問題点を挙げ、特許法改正の提言を行いました。続いて2004年10月、米国議会の私的諮問機関である全米科学アカデミー(National Academy of Science, NAS)は、FTCと同様の提言を行いました。これらの提言レポートでは、特許法を改正して訴訟における争点を極力減らし、先発明主義から先願主義に移行することを含め、分かりやすいスリムな特許制度とすることを推奨しました。実はこの分かりやすいスリムな特許制度とは、先願主義を採用する日欧の特許制度と実質的に同じものです。 これらの提言に続いて、連邦取引委員会(FTC)と全米科学アカデミー(NAS)とは、米知的財産権法協会(American Intellectual Property Association, AIPLA)とともに特許法改正内容の衆知を図るため、2005年2月、3月にサンノゼ、シカゴ、ボストンでTown Meetingと称するシンポジウムを開催しました。これらのTown Meetingの締め括りとして2005年6月9日にワシントンDCにおいてシンポジウムを開催しました。 一方米国下院では、このワシントンDCでのシンポジウムの前日(6月8日)に特許法改正法案HR2795が提出され、シンポジウム当日(6月9日)午前中に、下院担当委員会においてその法案についての公聴会が開かれ、その日の午後、その議会公聴会を主催したスミス委員長がシンポジウムに駆けつけ、基調講演として法案及び公聴会での証言の概要を披露するということが行われ、インパクトの大きいシンポジウムとなりました。 この特許法改正法案は、米国を先発明主義から先願主義に移行することを含め19世紀以来170年ぶりの大改正であると言われております。大改正をスムースに行うために、上記のTown Meetingによって民間への普及、根回しが必要であった訳です。 米国では、業界の利害に対して非常に敏感であり、議員に対するロビーングが盛んに行われます。1990年代の始めに、米国特許制度を先発明主義から先願主義に移行すべきかどうかの議論があったとき、先願主義は、大企業有利な制度で、小企業、個人発明家の権利を制限する困った制度である、というキャンペーンが行われて、先願主義移行が頓挫しました。2004年〜2005年のTown Meetingは、この経験を生かし、今回の特許制度改正は、決して小企業、個人発明家にとって不利になる制度ではなく、スリムな特許制度に向けて業界が一丸となって取り組むべきものであるとのキャンペーンでした。 5.議会の動きと民間対立の表面化 議会では、上記のFTCやNASの提言を受けて、上院や下院の担当委員会において2004年、2005年と民間の意見を聴取する公聴会が何度も開かれました。そして2005年6月、下院に特許法改正法案HR2795が提出され、その翌日に公聴会が開かれました。法案提出当初は、2006年6月末には司法委員会通過、年内には下院通過、というような希望的な観測が行われておりました。しかし、この法案には、特許権差止めを認めにくくする改正部分が含まれていたために、上記のIT産業界とバイオ・医薬業界との対立が表面化し、下院での法案審議の動きは2005年9月以来止まってしまい、2006年12月の会期終了までの間に特許法改正法の成立は危ぶまれるようになりました。 ところが2006年7月、議会が夏休みに入る直前に、上院の特許法改正法案S3818が提出されました。この法案には、IT業界、医薬業界の対立が大きかった特許権侵害差止めの改正部分が含まれておりません。今議会は、11月の中間選挙準備のため、2006年9月末に一旦休会となり、それまでに審議が終わっていない法案は、全て廃案となって、2007年から始まる新議会での法案提出を待つことになります。しかしこの原稿を書いている9月24日の時点では、上院内でまだ活発に動いており、2006年9月中に司法委員会通過、その後12月までに上院本会議通過、下院通過、大統領署名による成立、という僅かな希望が残されております。仮に上院案が最低でも司法委員会通過を果たせば、2007年から始まる新議会において継続審議となるので、次期議会会期内に特許法改正法が成立する可能性が一段と高まります。 6.最高裁の動き (1) 事件の経過 上記のように、特許権の侵害があったときには、公益的な理由を除き、原則として侵害行為の差止めを認めるというのが、これまでの政府、議会、裁判所における対応でした。しかし、パテント・トロールの問題が起きてから議会の動きと平行して、米最高裁においても、このような対応の見直しが行われました。 2005年11月、最高裁は、eBayのネット・オークションの一機能がマーク・エクスチェンジ社の特許権を侵害するとされた事件において、その侵害行為の差止めの是非について審理することを決定しました。この事件は、eBayのネット・オークションにおける「Buy It Now」の機能、即ち、売主が一定の価格を設定し、買主がその価格で買う意思表示をした段階で、そのオークションは終了するという機能が、マークエクスチェンジ社という特許のみを保持する会社の特許権を侵害すると認定された結果、eBayは、ネット・オークションでその機能が使用できなくなるのだけはやめて欲しいと、最高裁まで訴えたものです。そして2005年5月、最高裁は、特許侵害行為の差止めの是非は、「伝統的なエクイティ」に基づいて決定しなければならない、という判決を出しました。最高裁判所の判決の骨子は次のとおりです。 エクイティの原則によれば、侵害行為の差止めの救済を求める原告は、次の4項目を立証しなければならない。
一方、バイオ・医薬企業と後発メーカーとの関係でいうと、後発メーカーが安い値段で侵害品を売り出せば、原告医薬品メーカーは非常に困りますので、その製品の開発に貢献していない後発メーカーの侵害差止めを認める可能性は極めて高いといえます。 この判決は、最高裁判事全員一致の判決であり、インパクトの大きい判決ですが、ロバーツ最高裁長官は、その補足意見の中で、伝統的なエクイティの基準を用いるといっても、最高裁は原則として特許権の侵害行為を差止めることとしていたことを忘れないで欲しいと述べ、パテント・トロールが特許権者のときのみ例外的に侵害行為の差止めを認めなくてよい、と示唆しております。 (2) エクイティについて この最高裁判決で「エクイティ」という法の名前が出てきますが、このエクイティは、日本にはない英米法独特の法体系であり、裁判所がその裁量によって何がフェアで、何がアンフェアであるかを判断し、当事者のバランスがとれるように最終的な判決を下すというものです。欧州大陸諸国の法律と、イギリス及びそれを受け継いだ米国や旧英連邦の国々の法律とは、多くの点で異なり、それぞれ「大陸法(またはCivil Law)」、「英米法(またはコモンローCommon Law)」と呼ばれております。英米法には、社会規範を基本ルールとするコモンローと、フェアネスを基本ルールとするエクイティという二つの法体系があります。コモンローというのは、11世紀の英国の建国以来、各地の裁判所の判例を共通の法とするため判事を各地に巡回させて裁判を行うことが行われました。一方、14世紀以降、コモンローの裁判所の硬直した法的判断が時代に合わなくなり、国王に直訴することが行われ、それを判断するエクイティの裁判所がコモンロー裁判所とは別に作られました。エクイティ裁判所では、国王または法務官(Chancellor)がその裁量により当事者の全ての状況を考慮して、コモンロー裁判所において判断されると著しく不公平となってしまうものを、当事者のバランスを図ることが行われます。例えば、詐欺・強迫によりされた契約は、コモンロー裁判所では契約は守らなければならないとして、契約執行判決がされますが、エクイティ裁判所では、詐欺・強迫の状況を考慮し、当事者のバランスを取るために当該契約無効の判断を下すということになります。 コモンロー及びエクイティに関する英米法は判例法ですから、先決例は判例法(Case Law)となって、その後の他の事件を拘束します。そこで、議会(連邦議会や州議会)が判例を明確に成文化したり、判例が正しくないと判断される場合には、議会はこれを覆すために、成文法(Statute)を制定することがあります。成文法が制定されると、裁判所はその後の事件において当該成文法を解釈します。その解釈法は、再び判例法として後の事件を拘束することになります。このような、コモンロー、エクイティ、判例法、成文法の関係を図示すると、図のようになります。 ![]() 一方、日本等の大陸法を継受する国々では、このような二つの法体系はなく、判決はその事件のみを拘束し、過去の判例はその後の事件において参考にされるに過ぎません。 7.最高裁判決のインパクトと今後の動き 2006年5月の上記最高裁の判決により、パテント・トロールの「特許権侵害行為を差止めるぞ」との脅し文句が通用しなくなりました。また、2005年6月に出された下院の特許法改正法案では、特許権侵害差止めを弱める改正部分が含まれておりますが、2006年7月に出された上院の特許法改正法案では、特許権侵害差止めの改正部分は含まれておりません。その結果、IT産業界とバイオ・医薬品業界との対立は、表面的には解消したことになり、改正法成立の可能性が高くなったといえます。 パテント・トロールは、文字通り米国の特許制度が生んだ魔物ですが、米国における特許制度改革を進めるきっかけとなったことは確かです。特許法改正法案の成立は、訴訟費用の低減とフォーラムショッピングの防止を図る条文が盛り込まれており、米国企業だけでなく、日本の企業にとっても待ち望まれる改正です。フォーラムショッピングの研究についての権威である、キンバリー・ムーア元ジョージメーソン大学ロースクール教授が、2006年8月に連邦巡回控訴裁判所判事に任命されたことも、一連の特許制度改革の動きとは無関係とは思えません。いずれにしても、今後の議会の動きに注目が集っています。 8.むすび 以上、フェアネスの観点から、米国の特許制度改革が行われていることのあらましを述べましたが、米国でのこのような制度改革の状況をみるにつけ、日米の根本的な相違を感じます。日本では、制度改革は政府主導で行われます。政府が問題解決のための方策を策定し、それを制度化し、法案が提出されればそのままほぼ確実に国会を通過し、法律となります。法律を巡る裁判では、当事者の主張・立証が行われるだけで、第三者が裁判所に対して意見を述べることはまずありません。 一方米国では、制度改正は民主導で行われます。議会証言において法案に対する反対意見が述べられれば、法案の賛成派と反対派のロビーングにより、妥協案が纏められ、妥協案がまとまらなければ法案は廃案となります。強行採決はまずありません。裁判所において、重要な法的問題が審理されるときには、法廷助言者(Amicus Curie)として意見書(Amicus Brief)を提出し、意見を述べることができます。上記のeBay事件では、延べ37件の意見書が最高裁に提出されました。中でもeBay事件を最高裁が取り上げるように促した35名の知的財産権法専門の大学教授ら連名による意見書は、光っておりました。その後52名に膨れ上がった知的財産権法専門の大学教授ら及びIT業界からは、特許権差止め制限を要求するものが、バイオ・医薬業界及び政府からは、特許権差止め制限否認を要求するものが出され、ここでも産官学内での対立が浮き彫りにされておりました。 このように、米国では、制度は国民のものであるから、国民全体の意見を聴取した上で最もよい方法で制度を作ろうとする、極めて強い民主主義の下での制度改革が行われております。また、国民・業界それぞれが、民主主義国家の一員として成熟しているのを見ることができます。逆に、船頭多くして船山に登る‥‥ということも無きにしもあらずですが、日本においても、何時の日にか米国のように国民が成熟することを願ってやみません。 |