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![]() ![]() 『Book Revue』 今月から書評を掲載させていただくことになりました。日本のビジネス誌に連載しているものですが、海外の話題図書ということで和訳が出ていない、出そうにないノンフィクションをニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト等のベストセラー・リスト、書評から選んでいます。お忙しい皆様、なかなか仕事に直接関係のない本は読む余裕はないでしょうから、この書評が参考になれば幸いです。初回はローレンス・ライトのThe Looming Towerですが、この書評を書いた後に本年度のピュリツァー賞を受賞しました。 池原麻里子 (ポトマック・アソシエーツ) 『そびえ立つ塔:アル・カイダと9/11への道』 ローレンス・ライト著(クノップフ社) ベトナム戦争のような泥沼化の様相をみせるイラク戦争。ブッシュ大統領は1月10日、アル・カイダと戦い続け、思想的闘争に勝つことが国家安保上、重要だと、兵士2万人の増強を発表した。戦前、イラクにアル・カイダはいなかったのに。さて、9/11同時多発テロ、アフガニスタン攻撃やイラク戦争に関する著書は、ボブ・ウッドワードの三部作を始め、数多い。中でもオサマ・ビン・ラーデンとアイマン・アル・ザワヒリがアル・カイダのリーダーとなる経緯、および米政府による同組織への対応を詳細に描いた名作が、この著書である。タイトルの『そびえ立つ塔』はコーランが出典だ。 ニューヨーカー誌記者ローレンス・ライトはほぼ5年に渡り、エジプト、サウジアラビア、パキスタン、アフガニスタン、スーダン、イギリス、フランス、スペイン、アメリカでビン・ラーデンの大親友、サウジ王族、アフガニスタンのムジャヘディーン等、500人以上にインタビューして、本書にまとめた。特に興味深いのはビン・ラーデン、ザワヒリ、FBIテロ対策主任ジョン・オニール、元サウジアラビア情報機関トップのトゥルキ・アル・ファイザル王子4人の人生を描きつつ、アル・カイダの活動を追っていることだ。 ビン・ラーデンがアフガニスタンでソ連と勇敢に戦った「英雄」ではなく、実は戦闘前に病気になってしまった意気地なしだったこと、無能なビジネスマンでイエメン滞在中に採算の合わない投資で全財産を失ったことや、息子や妻には甘いことなど興味深い。富は失ったが、組織つくりとPRが上手なビン・ラーデンは、ケニアとタンザニアの米大使館、およびイエメン沖の米駆逐艦コール爆破テロで、アル・カイダへの支持を集めることに成功する。 ビン・ラーデンとその一族、サウジ王室、ブッシュ一家との関係も興味深い。トゥルキ王子はビン・ラーデンと幾度か対決するが、国内事情に鑑み、彼を罰することは避ける。なお、これは本書とは無関係だが、同王子は2005年秋から駐米大使を務め、昨年末突然帰任した。22年駐米大使を務めたバンダル王子がダブル外交を続けたことが一因だったと言われている。 近代イスラム原理主義者の思想的父サイード・クータブが、1940年代コロラド州に留学時に「西洋」の堕落に反感を抱くようになり、エジプト帰国後に過激化する経緯が詳しく描かれている。これは9/11主犯モハメド・アタを髣髴させる。そしてライトは「イスラム過激派の怒り、近代化に対する反感、殺戮正当化の根底にあるのは屈辱感である」と指摘する。イスラム過激派の出身が中産階級であれ、貧困層であれ、彼らの独裁的政府は硬直化し、将来に対する希望を与えることが出来ない。そこで死に尊厳を与えるイスラム原理主義に走るのだと。そして彼らは「イスラム国家の問題はアメリカが原因だ」と主張するビン・ラーデンを信望するに至る。 CIAとFBI間、および内部抗争で、事前にテロリスト情報がありながら、9/11を阻止できなかったことは9/11報告書で指摘されたが、本書でも鮮明に描かれている。アル・カイダを一番理解していたFBIテロ対策主任オニールは政府内抗争に負け、2001年8月22日に引退した。翌日から世界貿易センター警備責任者を務め、9/11で命を落とすことになったのは運命の皮肉としか言いようがない。 さて、逃亡生活を続けるビン・ラーデンが、直々にテロ計画を企てることは不可能になったのかも知れない。が、アル・カイダを名乗るテロ行為がロンドン、マドリッド等々で発生したことからも、彼の思想がイスラム過激派に浸透し、成功していることがわかる。今後も何十年も続きそうなイスラム原理主義との戦いだが、本書はその思想を理解するためにも必読の書といえよう。 (NEW LEADER 2007年2月号より転載) |