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![]() ![]() 『イノベーション・ネットワーク結成のすすめ』
元・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
ついこの間ワシントンに着任したと思ったらあっという間に3年間が過ぎ、6月23日に離任時期を迎えてしまいました。出張に明け暮れた3年間でしたが、都心から20分も車を走らせれば豊富な緑を満喫できるワシントンは、小職にとって大変心地よく、過ごしやすい街でありました。フルマラソンに挑戦したり、ゴルフに参加してはブービーメーカーになったりといろいろ思い出深いものがありますが、拙稿では、仕事面で日々強く感じた問題意識を、離任に当たり簡単にご紹介させていただければと思います。ワシントン所長 進藤秀夫 (現・経済産業省) <イノベーションへの注目の高まり> 小職の勤務した新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所では、米国のイノベーション政策から環境・エネルギー政策に関わる政策・技術動向を幅広くモニターしていますが、いついかなるときでも米国特にワシントンの動向は日本の政策検討者にとって格好の勉強ネタとなります。例えば資源小国日本としては、特に自国産業の競争力を常に意識せざるを得ませんが、米国でも近年改めて「競争力」や「イノベーション」への注目が高まっています。 具体的には、2004年12月の米国競争力評議会による提言「イノベート・アメリカ」の発表から始まって、2005年12月の全米アカデミーの提言「強まる嵐を乗り越えて」発表、そして最近の米国議会における、基礎研究・教育強化を中心とする競争力法案の審議・可決にいたる一連の流れがあるわけです。思い起こせば米国でかつてこうした問題意識が取りざたされたのはちょうど競争力評議会が結成された20年ちょっと前、日本が「ライジング・サン」などともてはやされていた頃で、当時日米間では通商摩擦が絶えず、米国では日本への対抗意識から、バイ・ドール法を導入したり、先端技術プログラム(ATP)を創始したりしました。しかしながら、最近のイノベーションへの注目は、20年前に見られた「国対国の直接的な競争力対抗」とは若干図式が異なります。 最近の米国での議論は、中国・インドといった新興国・地域の隆盛に対して米国が競争力を引き続き保ち続けるためにはどうすればよいかという問題意識から出発しつつも、解決策としては通商摩擦的手段に頼らず、イノベーションが生じやすい環境を米国に保ち続けることが必要だ、との発想から、具体的政策ツールとして基礎研究と教育のてこ入れを図ろうとするマイルドな政策群に落ち着いている、といえましょう。背景には、企業のオフショアリングの進展や、米国科学技術人材の多くがアジアから流入する研究者に担われている実態があり、「国境を挟んで対立」しにくい事情があるわけです。こういった米国での政策の流れは、日本にとっても、基礎研究強化や教育・研究の連携、イノベーション・エコシステムへの注目、さらにはグローバルな視座からの科学技術・産業技術政策の必要性といった政策的ヒントを与えてくれるものです。 <米国の真の強み> しかし、小職がこの一連の動きを追いかける中でむしろ強い印象を受けたのは、こうした政策形成に当たり、イノベーションに関わる多様な利害関係者がダイナミックに取り組む、カオティックともいえる意思決定のプロセスでした。 政策形成の表層面だけ見ても、ご案内のとおりワシントンでは行政府だけでなく議会、ロビイスト、NGOなどの圧力団体などが関わってきます。しかも連邦政府のみならず州政府の動きも無視できません。又米国とくにワシントンでは、政治的議論が熱しやすくさめやすい傾向があります。たとえばバイオエタノールや地球環境問題など、突然時宜を得て盛り上がってしまうわけです。うがった見方をすれば、ワシントンにおける議論の結論としてもたらされる政策は、政策理論に基づき整然とした意思決定プロセスで立案されたものというよりも、その時期の政治情勢を踏まえた関係者の多様な見解の妥協の産物としての結果であることが多いわけです。イノベーション政策も例外ではなく、全国の約300の有識者がまとめた「イノベート・アメリカ」の包括的な提言集は、全米アカデミーや議会での議論を経て、論争になりにくい基礎研究や教育に施策措置が限定されてきた感があります。結局、結果として成立した政策のみを教訓として受け取るのは、政策検討者としてはナイーブに過ぎるということになりましょう。しからば、イノベーション分野でわれわれが米国に見習うべき真の動きは何なのでしょうか? 米国の関係者などと話をすると、「米国には科学技術政策も産業政策もないからなあ(笑)」と指摘する人もたくさんいます。「日本のほうがしっかりやっているよ」と真顔でいう人も数多くおられます。しかしながら、公平な目で見て米国ほどイノベーションが進んでいる国はないわけです。じつはその秘訣は、企業も、NGOも、ベンチャーも、大学も、生き残りをかけて熱い競争をしており、このため新しい取り組みに自ら果敢にチャレンジしていることにあるのではないかとおもいます。アクティブな動きが多とされる米国のような環境では、ミスや無駄も多いにせよ、流動性と競争を保つことによって新たな成長・革新の芽を生み出す力を維持しているように思います。 ジョン・マーバーガー大統領科学技術顧問の提唱で検討が開始されている「科学技術・イノベーションに係る科学」の検討の中核組織である関係省庁間会議の共同議長の一人、Bill Valdez氏(エネルギー省科学局)は、「透明性と流動性、そして競争の維持こそがイノベーションを生み出す政府プログラムの共通事項だ」と、会うたびに指摘してくれますが、日本社会もこれを見習うべきときに来ているのではないでしょうか。 <イノベーションの裾野の広がりとネットワークの重要性> イノベーションには技術の芽を作る部分(個別の発明や技術開発)と、ビジネスとして育てる部分とがあります。もちろん技術自身も大切ですが(日本企業は特に技術過剰信仰の嫌いがあり、またNEDOも政府系技術開発支援機関としてつい先端技術の研究ファンディングに関心がいってしまいますが)、どうしたらビジネスになるのかという点を、よく考えていくことが必要です。この点、米国では技術に限らずビジネス・アイデアの勝負!という意識が浸透しているように思われます。 とくに、最近ではイノベーションを取り巻く状況は、グローバル化、アウトソーシング(オープン)化、サービス化などの動きを含めて非常に複雑化してきています。米国でも、多くの科学技術人材をアジアなど外国から受け入れています。実は米国はイノベーションに必要な人材を自然に吸引することができる分、有利な立場にあるともいえるくらいで、カナダや中国などでは、意識的に優秀な科学技術人材を招聘し、自国に根付かせようとするプログラムすらあるほどです。 こうして考えてみると、多彩なバックグラウンドを持つ関係者が顔を合わせて、技術やビジネスなどを対象に幅広く意見交換するそこにこそイノベーションの可能性があるのではないでしょうか。個別の研究開発プロジェクトの成否も重要ですが、草の根型の研究者や起業家のネットワークをどう結成し維持していくのか、また国際的に活躍する人材をどう育て活かすのか、というようなことにこそ、意を注ぐべきではないかと思うのです。 <イノベーション・ネットワーク構築の薦め> しからば、われわれは具体的にどのような取り組みをしていけばいいのでしょうか。まず手始めとしては、オープンイノベーションや国際交流をどう進めるべきか、関係者でよく議論していくことが大切ではないかと思います。例えば日本ではいろいろ技術に力を入れている割に、できた技術成果が市場に結びついていない事例がたくさんあります。ベンチャー市場の問題、大企業に死蔵されている技術の問題、人材市場の閉鎖性など、少しずつ解決しなければならない問題がたくさんあります。ならばどうすればいいのか、議論していくネットワークがあるといいと思うのです。 そこで提案です。ワシントンの日本人関係者の中にも、若手の、技術に関心のある方はたくさんいらっしゃることかと思います。とくに、最近問題となっている地球環境問題のように、学際的でかつ50年、100年がかりの研究開発を要するようなイノベーションの課題もあります。そこで、ワシントンの日本人関係者の中でイノベーションについて議論する草の根のネットワークを育てていかれてはいかがでしょうか?商工会においても、米国政府系機関やNGOのイノベーション関係者を定期的に、例えば四半期に一度程度講演にお招きすることを通じて、こうしたネットワーク構築を助けられないでしょうか?ワシントンは一見政治の町ですが、NIH、ペンタゴン、NSFなど重要な技術ファンディング機関も持っています。このため科学技術(政策)人材も数多くおられますし、定期的に彼らからお話を聞くのもよい機会になるかと思います。 一度日本で講演をする機会があり、このような問題意識を問いかけたところ、聴衆の方から「日本とアメリカは違うから」とのコメントがありました。確かにそのとおりで、米国のやり方をそのまま輸入することはできません。そうすると、日本のようなややクローズドシステム、コンセンサス中心主義と、米国型のダイナミックでオープンなシステムとの折衷をどう模索するかが大切となります。そういう意味でも、米国と日本と両方を見ておられるワシントンのかたがたで議論してみるのは一つの可能性ではないかと思います。3年もかかって帰任直前にようやくそこに思い至ったかと言われそうですが(笑)、一定の日本理解を持つ人たちが、日本のイノベーションをどうすればいいか議論するネットワークを、まず自分たちで結成して見ようとするのは面白い試みではないでしょうか。 以上を問いかけとして、小職は敵前逃亡(笑)して日本に戻りますが、本件についてご意見のある方、是非ご連絡いただければ幸いです。ワシントンでイノベーションに関心のある方の集まりができましたら、小職も是非メールベースででも参加したく、よろしくお願い申し上げます。 |