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![]() ![]() 『今月の書評』
池原麻里子
『雑食動物のジレンマ』ポトマック・アソシエーツ マイケル・ポラン著(ペンギン社) 狂牛病発生以来、私は牛肉は避けている。米国の元農務省検査官やと殺場職員などから、へたり牛を報告すると、無視され、圧力がかかったという話を聞いたことがあるからだ。米国内での狂牛病発生率は公式数字よりずっと多いと察する。何しろ毎時間400頭が処理されるのだから、日本が米国産牛肉輸入を再開した後も危険部分等が何度も発見されているのも不思議ではない。 時々、ハンバーガーやサラダからO157に感染し、死者が発生したというニュースで米国民はパニック状態に陥る。そんな中、米医学協会の警告にもかかわらず、米食品医薬局は牛の肺炎予防に抗生物質の投薬を認める方針を明らかにした。同局はまた、クローン牛の肉と牛乳が食用に安全であるとの見解を示した。普通の牛と違いないから、特別レベルは不要だという。私はクローン牛の肉も牛乳も遠慮したいのだが、これでは区別しようがない。そもそも普通牛のステーキを注文しなくても、知らないうちにスープ等に紛れているに違いない。 米国のホルモンや抗生物質を投与したり、遺伝子を組み換えた農畜産物はしばしば輸出相手国との貿易摩擦の原因となってきた。アグリビジネスはどのようにして、現在の不自然な生産形態に至ったのか。様々なダイエットが次から次と流行り、低カロリーの食品が並ぶ中、5人に3人が肥満しているのはなぜか。 これを明らかにするのが、カリフォルニア大学ジャーナリズム学教授マイケル・ポランの『雑食動物のジレンマ』だ。2006年4月出版以来、今でもニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに入っている。同著の副題は「4つの食事の自然史」で、第1部はファーストフードやスーパー用のインダストリアル・ファーミング、第2部は大手オーガニック産業、そして零細オーガニック農場、第3部は自ら狩猟、採取、栽培した材料を使った食事を紹介している。著書を通じて、食事が農業ばかりか、環境に大きく影響することを指摘する。 まず大量生産の食事。スーパーに並ぶ4万5千の製品のうち、4分の1以上にコーンが含まれている。コーンを主食とするメキシコ人より、米国人の体はコーンでできているのだ。政府助成金により、80年代には様々な農産物を栽培していた農場は、コーンに専念するようになるが、採算は合わない。カーギルとADMが全米のコーンの3分の1を買い上げている。 コーンの60%が家畜の餌で、その大半が1億頭の牛用だ。なぜかというと放牧牛がと殺体重1,100ポンドに達するのに2,3年かかるが、コーンが餌の牛は14ヶ月でその体重に達するからだ。牛は狂牛病発生以来、肉骨粉こそ与えられなくなったが、牛脂は与えられている。共食いだ。牧草を食べている牛の胃は中性なので、バクテリアは人の酸性の胃では死ぬ。ところが、コーンが主食の牛の胃袋は酸性で、バクテリアも酸に強くなったため、40%がO157を持っているという。その結果、人がO157中毒にかかるようになった。コーンが餌の牛は胸焼け、下痢、胃潰瘍に悩まされ、最低15%、恐らく70%に肝臓障害があるという。 大量生産で牛肉は安くなり、3人に1人が毎日、ファーストフードを食べている。しかし、ハンバーガー、コーン・シロップで味付けされたソフトドリンクを食している米国人に肥満が増え、医療コストは年間900億ドルだ。 さて、オーガニック産業はどうか。私も愛用しているホールフーズなどのオーガニック・スーパーは価格が通常のスーパーのほぼ倍だが、この十年あまりで急増し、今や110億ドル産業だ。オーガニックというと放牧されている家畜を思い浮かべるが、実はインダストリアル・ファーミングとあまり変わらないことをこの本で知った。これでは詐欺ではないか。週末にたつ個人オーガニック農家の市をもっと利用しよう。ホールフーズより更に割高だが、夏、熟してからもがれたトマトは不恰好でもちゃんとトマトの味がする。 (NEW LEADER 2007年4月号より転載) ![]() |