『退職後の人生の一つの可能性について』
(Malaysia My Second Home Program)


在米国日本大使館 公使 横井 裕

こんにちは。大使館経済部の横井です。昨年9月からワシントンで勤務させて頂いています。今回商工会議所から会報に何か書いてくれとのご依頼を頂戴し、このような機会を頂いたことにまず感謝申し上げたいと思います。本日のテーマは、ちょうど私から上の世代の方々が関心をお持ちであるかもしれない、退職後の過ごし方ということで、具体的には外国(マレーシアが中心)での第2の人生の可能性につき、少し話をさせて頂きたいと思います。

私はワシントンに来る直前にはマレーシアのクアラルンプール(KL)の大使館で3年間勤務しておりました。KL着任直後のある席で、今でも忘れられない初老の日本人男性にお会いしました。そのかたは、「自分は満足に学校も出ていない、仕事だってずっとタクシーとトラックの運転手で一生を過ごしてきた。結婚もしなかったから家族もいません。ただ、親不孝な自分ですけど、母親の面倒はずっと見てきました。ところが、だんだん年をとって、自分ももう働けなくなる、収入もなくなる、母親も体の自由がきかなくなる、このままだと年老いた母親と二人で野垂れ死にかなと思っていたときに、週刊誌で「マレーシアでの第2の人生」という記事を読み、これしか方途はないと思い定めて、1年前ほどに母親と一緒にマレーシアに来ました。わからないことだらけだったですが、親切な日本人の助けを得て、マンションを500万円程度で求め、何よりもインドネシア人の20歳のメイドさんが、邦貨2万円程度で住み込みで働いてくれており、母親の世話をはじめ、洗濯食事等家事一切をみてくれているので、おかげで安心して暮らせます。どのみち、日本ではもう働けないし、年金もないも同然なので、こちらに来て本当によかったと思います。ここでの生活費は月10万円程度で何とか暮らせます。また、日本人会館には、50以上の同好会、講座があり友人をつくるのに事欠きません。また、中の日本食堂も値段もまあまあでおいしい和食が食べられるので、やはり来て良かったと思っています。」というようなことを言われました。私はこの話を聞いて、自分で何といわれようが何であろうが、人生の岐路に立ったときに難しい決断を一人で勇気を持って行い、何とか切り抜けて満足しておられるこの方は実に偉いと思いました。でも他方で、日本の中には同様に追いつめられている人が他にもたくさんおられるかもしれないし、マレーシアでの第2の人生が一つの選択になるのなら、日本人にとりもっと利用しやすい選択肢にできないかと思いました。

他方、現地の日本人社会の状況をみると、「失われた10年」の中で日本の対外投資が細りだしたために、在留邦人数、日本人学校の在籍生徒児童数。そして日本人会会員数が90年代後半をピークに急速に数を減らしていく状況にあり、危機感を募らせていました。一方、駐在員数が減少するなか、3つのグループが少しずつ数を増やしていました。まず、現地の方と結婚された日本人の方々(どちらかというと奥さんが多い)、日本国内の厳しい就職事情の中、駐在員としてではなく現地雇用ベースで働いている若い人たち、最後にKLで退職後の人生を送るセカンドホーマーの皆さんでした。

(閑話休題:折しも、2007年からいわゆる「団塊の世代」の大量退職をむかえつつあります。「団塊の世代」とは1947年から49年までの3年間に生まれた806万人を指しますが、さらに続く2年間も同世代として、計約1000万人の方が含まれます。これらの人々の内、外国移住をしたいと漠然と考えている人の割合が約16%程度いらっしゃるというアンケート調査がありました。まさかと思われる数字ですが、仮に10%が実際に移住するとしても15万人超となり、ちょっと想像できないくらいの人が海外移住することになってしまいます。)

当時私はKL日本人会とマレーシア日本商工会議所の双方に大使館から顧問として参加していたので、日本とマレーシアとの将来に繋がる関係の柱の一つとして考えられないかと思い、日本人会の神川良一会長(当時三井物産KL事務所長)に相談し、日本人会の中に「セカンドホーム小委員会」を作って頂きました。2004年夏のことでした。そこに委員として集ったのがすでにKLでセカンドホーム人生を謳歌中の、元商社重役氏ご夫妻(Hiko&Yoko)、元某国営系放送局アナウンサー氏(カトさん)、元IT技術者氏(竹じい)、都会派ホーマー氏(すえさん)、経営コンサルタント氏(はやせさん)、美術関係女史(じゅんこさん)等々10名足らずの強者(つわもの)たちでした。皆さんKL暮らしに満足し、何とかその良さを仲間の日本人に伝えたいという意欲にあふれておられました。そのほかに、日本人会長、副会長(まんだいさん)、担当理事、大使館から私と領事部長という顔ぶれで、月一回のミーティングをほとんど休まずに重ね、どうしたら多くの日本人の方にKLを知ってもらえるか、日本人向けの医療、介護(老人ホームを含む)の仕組みの調査、ひいては19世紀末から20世紀初頭にマレーシアに渡った「からゆきさん」が主に眠る、KL日本人墓地の新規利用開始まで話し合いました。日本人会での活動以外にも、実際に新しくマレーシアに来る人を具体的にサポートする任意団体「お助けマンクラブ」というのも結成されました。これらの活動の成果は、これまでKL日本人会にリンクをはったホームページに掲載されていましたが、2007年10月10日をもって新規SNSサイト(本稿末尾にご注目)が新しく立ち上がっています。ここをのぞいてみるだけで、KL暮らしの特徴、制度概要、各種情報、先輩セカンドホーマーの体験談、今後KL暮らしに関心を持っている人たちの相談コーナー等盛りだくさんの情報が並んでいます。ご関心の向きには実際に見て頂くとして、以下は興味を持って頂きそうなポイントにつきさわりだけ申し上げます。

なぜ、マレーシアがセカンドライフにとり好ましいか。書きだすと以下のようになります。

  1. 熱帯といいながら、平均気温が最高で27−29度、最低は25−26度で年間を通してほとんど変化がないことです。つまり、日本の過酷な夏よりも涼しく、寒い冬がなく、杉花粉の季節がないということを意味します。スコールもあり意外と過ごしやすい気候です。

  2. これからは少し上昇するかもしれませんが、現在の所、物価は日本の大体3分の1程度であること。和食を含め、中華、インド、洋食、マレー料理など食事のバリエーションが多く、安くてしかもおいしい。

  3. 80年代から「Look East政策」(日本に学べ政策)がとられたこともあり、日本並びに日本人に対して極めて友好的な国民柄であること。マレー人はイスラム教徒であるが、穏健な教義を信仰し、他人に信仰を強要しない。一例として、イスラム教徒以外の飲酒は自由。

  4. 英語が広く通用すること。

  5. 治安がよく、衛生面でも問題が少ない。医療水準も比較的高い。近隣諸国の中では各種インフラが格段に整備されていること。

  6. 都市滞在型ならKL、リゾート型なら、ペナン、コタキナバル、ゲンティン・ハイランドなど国内に豊富な滞在適地があること。また、KL日本人会など、日本人にとって仲間作りおよび活動をしやすい拠点があること。

  7. 特に裕福でない日本人にも取得可能な滞在ビザ制度を有していること。「Malaysia My Second Home Program(MMSHP)」(この点で、米国、豪州は千万円単位の高額のデポジットが必要で、厳しいと言われている。)

あえて他の国との比較を掲げていませんが、どう思われますか。

次に滞在査証ですが、3ヶ月以内の短期滞在なら査証はいりません。しかし、3ヶ月を越える滞在には査証が必要となります。上記のMMSHPビザを獲得できれば、@一戸15万RG(1マレーシア・リンギ=33日本円程度なので、大体邦貨500万円程度)の家屋を銀行融資付きで2戸まで購入できる、A自動車一台を無税通関できる、Bメイド1名の入国ビザが発給される、C年金は無税といった恩典が供与されます。MMSHPビザの条件は、人種、宗教、性別、年齢による制限は一切なく、経済的要件が主なものです。具体的には、マレーシアの銀行に1年間定期でUSドル7万5000ドルまたはマレーシア・リンギで相当額を積み立てることとなっています。この金額は2年目以降に他の目的に使うことが自由となっており、家や車、あるいは投資、株式購入などもOKです。(ただし、最近は申請者が急増していることを背景に、1500万円程度の日本国内預金を所持している証明を求められることがあるという話を耳にしました。)

以上、もちろん何から何まで理想的というわけにはいきませんし、実際にいってみたら話しが違っていたということがあるでしょうから、慎重に判断頂く必要はあります。また、私自身いずれはマレーシアに移住するということを決めたわけでもありません。ただ、今よりもさらに年をとったときに日本の寒い冬と暑い夏は厳しいだろうなという気持ちや、スポーツが手頃にできることとか、あのきれいな海に強く惹かれていることは事実です。少なくとも。まだもう少し時間があるにしても、先々の選択肢の一つとしてちょっと真剣に考えています。

  • まずはこのサイトから。マレーシア、ペンギンダボハゼ(ペンダボ)HP http://www.geocities.jp/hikosakamotojp/index.html

  • ご関心の向きは、「ご褒美人生 マレーシア」(イカロス出版)の一読を奨めます。(ちなみにこの本はこのたぐいの本としては大いに売れていますが、著者が本の価格を安くするために印税を辞退しているので、本人の懐には一円も入らないというもったいないおちがついています。)

(了)