『今月の書評』

池原麻里子
ポトマック・アソシエーツ

『デッド・サータン』(DEAD CERTAIN)
ロバート・ドレーパー(フリープレス社)

タイトルは「不動の確信」というような意味で、ブッシュ大統領の統治スタイルを象徴している。副題は『ジョージ・W・ブッシュのプレジデンシー』。ボブ・ウッドワードの『ブッシュのホワイトハウス』(State of Denial)の約一年後の今年9月に出版されたばかりだ。

著者ドレーパーはGQ誌の記者で、98年のブッシュのプロフィール記事が「公平だ」と気に入られ、ブッシュと同じテキサス出身者ということで信頼され、ガードの固いことで有名なホワイトハウスから許可が下りる。昨年12月から今年5月にかけて、ブッシュ本人に6回、ローラ夫人に2回、そのほか多数の側近にインタビューして本書を記した。

99年のニューハンプシャー州での大統領予備選挙活動に始り、今年5月イラク増兵を決断した時点で終わる。これまですでに新聞や雑誌、ウッドワードやロン・サスカインド等の著書などに書かれたことも多いが、ブッシュやカール・ローブを始めとする側近とのインタビューに基き、ブッシュの人物像がよく描かれている。そこで明らかになったのは、よくいえば楽観的、悪くいえば現実から乖離した姿だ。

ブッシュは両親から愛されて育ち、クリントンのように皆から愛されたいという願望はない。自分が正しいと確信し、相手を説得する必要性も感じない。遊説先に反戦活動家がいれば、その会場は通り過ぎるよう命じる。従って、スタッフは支持者しか遊説会場には招待しないという徹底した対策を講じることになる。その結果、ブッシュは自分が全面的に支持されているという幻想を抱くことになる。また社会年金改革案や移民法改正など論争を呼ぶ法案審議について、反対の立場の議員を説得して支持をとりつけるなどという努力は一切しない。当然、目的は達成できない。上下関係を重視し、絶対の忠誠を求める。ローブが図に乗ったため、皆の前で自分の上着をハンガーにかけるように命じたこともある。ローブ等、長年の側近の多くがホワイトハウスを去り、ブッシュはますます孤独だ。

ルーティーンを重視する。朝7時には大統領執務室に入り、30分ほど世界の首脳に電話する。7時半にはインテリジェンス・ブリーフィングを受ける。その後は昼まで15分ごとにスタッフとミーティングする。午後は政策やホワイトハウス・プロジェクトの会議だ。6時半には仕事を終え、7時に食事、9時には就寝する。また1日のうち1、2時間は必ず運動に費やす。彼にとって一番のストレス解消法だ。ジョギングや自転車など過酷な天候の中でも遂行し、自分より若いシークレット・サービスを負かすことが生きがいだ。90分自転車に猛スピードで乗った後も心拍数は140と超健康だ。

予定通りにスケジュールをこなすことを最重視する。会議室にカギをかけて、遅れてきたコリン・パウエルに教訓を与えたこともある。予定重視で会議は時間通りに終わるが、中身がないという事態も生じる。今年1月、歴代の国防、国務長官13名がイラク問題審議のためにホワイトハウスに招待された。駐イラク大使、ラムズフェルド国防長官、ライス国務長官等からのブリーフィングに1時間の会議中45分が費やされた。その後のマクナマラ元国防長官、シュルツ元国務長官のお世辞に我慢できなくなったオルブライト元国務長官が「イラク戦争でイランや中国問題が放置されている」と忠告すると、ブッシュは「同時に複数の問題に対応できる」と憤慨し、会議は終幕。参加者数名がその中身のなさに唖然としたとか。

イラク戦争を絶対に勝てると信じている。大量破壊兵器の存在も信じ続けている。トルーマンのように歴史が自分の業績を再評価すると確信している。62歳で退任後は、ブッシュ元大統領やクリントン前大統領のようにスピーチで稼ぎ、フーバー研究所のような、若いリーダーが執筆や講義する場を作る予定だ。それにしてもブッシュが後日、再評価されるとは想像し難い。

(NEW LEADER 2007年11月号より転載)