『今月の書評』

池原麻里子
ポトマック・アソシエーツ

『降伏という選択肢はない』

ジョン・ボルトン、サイモン&シュスター社

本書は「強硬派のネオコン」として有名なジョン・ボルトンの回想録である。ブッシュ政権国務省、国連時代の裏話が詳細に記されているが、我々日本人には特に北朝鮮関連の章が興味深い。ただ、ブッシュ大統領をはじめとして「誰から褒められた」とか「正しいと言われた」という自慢話が多い。これは自信なさの表れなのだろうか。北朝鮮問題についてインタビューしたことがあるが、あまりチャーミングな人物ではなかった。

氏はボルティモアの消防士の息子で、両親は中卒だが、本人はエール大学、同ロースクール卒だ。エール大学ではブッシュ大統領の二年後輩、ロースクールではクラレンス・トーマス最高裁判事の同級生だった。十五歳でバリー・ゴールドウォ―ターの大統領選挙運動を支援したボルトンは、ロースクールでロバート・ボーク等に学び、保守思想に磨きをかける。ロースクール卒後、ワシントン大手法律事務所のアソシエートになるが、レーガン政権誕生でエドウィン・ミースの司法省入り。ブッシュ父の政権ではジェームズ・ベーカー国務長官下で外交手腕を身につけた。

そして二〇〇〇年大統領選のフロリダ州の投票結果をめぐる争訟に貢献したため、ブッシュ政権入りを果たす。二〇〇一年に軍備管理・国際安全保障担当国務次官、二〇〇五年には国連大使に就任した。議会は国連大使任命を承認しなかったため、ブッシュは休会任命。任期切れの二〇〇六年十二月に政権を離れ、現在は「ネオコンの巣窟」アメリカン・エンタープライズ研究所に在籍している

北朝鮮に対しては一貫して強硬で、最近のブッシュ政権の対朝融和政策を厳しく批判しているため、拉致被害者家族にとっては心強い味方である。しかし、北朝鮮との対話を拒否し、その核開発を放置することが、なぜ日米の国益に適うのか私には理解し難い。

北朝鮮問題は二章で取り上げている。国務省キャリアたちが現実を無視し、北朝鮮の核兵器開発を交渉で阻止できると信じ、失敗を繰り返していると憤慨している。二〇〇二年の小泉訪朝を控え、北朝鮮のウラニウム濃縮核開発計画による合意枠組み違反をどう日本に伝えるかの政権内の様子が詳細に描かれている。二〇〇六年七月のミサイル発射問題に対して、大島国連大使と連携して、安保理による制裁決議をまとめる交渉過程も興味深い。

ボルトンは日本の国連常任理事国を支持している。ただし、日本政府が追及したG4案については、日本は支持国を増やせず、ドイツ、インド、ブラジルの常任理事国入りの反対票だけ受け継ぎ損したと指摘する。また日本の常任理事国入りが果たせないならば、常任理事国拡大は無意味で、現状維持が好ましいと述べている。その他も国連改革については、いくつか鋭い指摘をしている。

ゴシップ的に描かれている内情も面白い。パウエル国務長官とアーミテージ国務副長官がラムズフェルド国防長官の批判ばかりしていたこと。パウエルが文書は読まず、詳細にとらわれず、大きな目標を推進する能力に長けていたこと。尊敬するジョージ・マーシャルを見本とする自分のレガシー作りを優先し、ブッシュ政権の外交政策との乖離が進み、辞任したこと。ライス国務長官はパウエルと正反対で細かい点にとらわれ、全体像を見失いがちのため、わざと多くの文書を渡して惑わすことで、自分の本来の目標を達成できたこと。ライス長官がニコラス・バーンズ国務次官、クリストファー・ヒル国務次官補などの影響で、そのイラン、北朝鮮政策が腰ぬけになってしまったことなど。そして国務省には民主党寄りが多く、ブッシュ政権の政策を無視して、自分たち独自の外交を展開していることが問題だという。

ブッシュ政権の負の遺産、イラク、イラン、北朝鮮、アフガニスタン、パキスタン、中東和平、中国、ロシア、大量破壊兵器拡散問題など次期大統領の抱える外交問題は山積みだ。国務省、国連はどう活用されるだろうか。

(NEW LEADER 2008年1月号より転載)