『世界規模での安全で環境に優しい車社会の実現に向けて』

JASICワシントン
所長 佐橋 真人

「JASIC」ってご存知ですか。初対面の方に、よくJASICの日本語の名称は何と尋ねられるのですが、「自動車基準認証国際化研究センター」と答えると、より一層困惑した顔をされてしまいます。悲しいかな、この日本語の正式名称を正しく言えるのは、ワシントンの中で私だけかもしれません。英語の正式名称は、「Japan Automobile Standards Internationalization Center」です。

近年、自動車や自動車部品の流通が世界的に拡大してきたため、自動車による地球温暖化や大気汚染、交通事故といった社会問題も、地球規模の視点で捉えることが求められるようになってきています。その結果、国毎に異なっている安全や環境に関する基準を国際的に調和することが必要となり、現在、自動車の基準は、国連の「自動車基準調和フォーラム」の場で、米国、日本を含む29カ国とEUが集まり、世界統一基準(gtr)の検討が進められています。JASICは、より多くの世界統一基準の策定などを目指して、メーカーの協力も得ながら、日本政府が行う国際化活動を支援するための公益法人です。

自動車は約3万点の部品からできていると言われますが、この世界統一基準(gtr )は、2004年にドアラッチ・ヒンジの基準が最初に策定され、その後、大型トラックの排出ガス試験法、二輪車ブレーキ、ガラスなどの7項目の基準が策定されたところです。自動車社会の歴史、交通環境、自動車に求められる性能などが、世界各国でそれぞれ異なっていることから、この世界統一基準(gtr)の合意形成は、決して容易ではなく、非常に時間が要するのが実態です。

例えば、交通事故の状況を見てみると、この10年で日本と欧州は死者数が減少しているにも関わらず、米国においては、微増傾向にあり、現在、毎年43千人程度死亡しています。図2をみてみると、米国では保有台数当りの死者数も減少していないことから、米国の交通事故死者数が減少しないのは、人口が増加し、自動車保有台数が増加したためではないということが分かります。

出典:IRTAD及び交通統計平成18年版

出典:交通統計平成18年版


米国の交通事故は、乗用車に乗員が死亡する割合が依然として高い(45%)のが特徴であり、そのうち、単独での事故や事故時に転覆(rollover)することにより死亡する事故が多いと言われています。また、死者数を年齢層別にみていると、米国では、若者(15〜24歳)の死者が多く(25%)、高齢者(65歳以上)の死者が少ないのが特徴です。 この他、米国では、死亡事故の際に、飲酒状態であった運転手の割合が約41%と高いのも特徴です。 米国の典型的な死亡事故としては、若者が、夜、飲酒運転をし、道路を逸脱し、横転して車外に放り出されて死亡に至ってしまうというものでしょうか。 このような事故の発生状況に対し、米国運輸省は、近年、側面衝突基準、転覆(rollover)事故を防ぐための基準などを強化したところであり、自動車の乗員保護対策が、引き続き重要な課題となっています。また、米国における飲酒運転事故対策については、日本よりも進んでおり、飲酒運転による免許停止、罰金だけでなく、一度飲酒運転事故を起こした者に、飲酒運転時にはエンジンが始動できなくなる装置(アルコール・イグニッション・インターロック装置)の取付けを義務付ける州もあります。それにも関わらず、米国では飲酒運転での事故が減少していないのが現状です。 一方、日本の事故の特徴としては、高齢者が歩行中に車にひかれてしまうという事故です。このように、各国の特徴的な事故形態が異なれば、それぞれの政府の重点対策も異なっているので、世界統一基準の策定も容易にはいきません。 また、昨年12月に、米国において自動車燃費基準に関するエネルギー包括法が制定されましたが、自動車の燃費基準については、自動車技術やその国の環境のみで決まるものでなく、各国の自動車産業政策やエネルギー政策なども複雑に絡んできますので、より一層、各国間で基準を調整することが困難な傾向にあります。 しかしながら、自動車の世界統一基準が策定されれば、自動車メーカーや部品メーカーが輸出入する際に不要な負担が軽減されるだけでなく、自動車の性能が向上し、より安全で環境に優しい自動車社会の実現が期待されます。このため、JASICとしては、今後とも、世界統一基準の策定作業への参加などをとおして、自動車関連の国際活動に貢献してきたいと思っています。

出典:交通統計平成18年版

出典:IRTAD