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![]() ![]() 『予防医療の大切さ 〜米国の病院の体験から〜』
NTTData AgileNet 伊藤 正樹
2007年に封切されたマイケル・ムーア監督の映画「SiCKO(シッコ)」をご覧になった方はどのくらいいらっしゃるだろうか?同監督は「Fahrenheit 9/11(邦題:華氏911)」であからさまなブッシュ批判で物議を醸したことで有名だが、SiCKOでは国民皆保険制度が導入されていない米国の医療サービスの問題点を赤裸々に描いている。やや扇動的な感じがするのは同監督の特長とも言えるが、それでも非常に興味深い映画であった。日本で上映された際には、国民皆保険制度が導入されている日本のよさがあらためて認識されたようである。海外で生活する者にとって、病院にはできるだけお世話になりたくないものだ。治療の内容にもよるが、日本と比べた場合、米国では一般にお金がかかる場合が多いし、医療保険制度等が異なるために支払い手続きが面倒、といった点が懸念される。また、万が一、命にかかわるような病気や事故が起きた場合に、医者等との適切なコミュニケーションがとれるか、あるいは、医療の質は十分であるか、といった不安を少なからず持つ。このため、日本で暮らす時と比べて、健康には一層気を使うことになる。とはいえ、米国に滞在して2年が過ぎた私も、何度か病院に行く機会があったので、いくつかの体験談をご紹介したい。ただし、体験談と言っても、実際に医者にかかったのは全て私の妻で、私自身は付添い役である。また、冒頭の映画の例にもあるような、米国の医療制度の問題点や制度のあり方といった政治的な話ではなく、日記のような単なる体験談であるので、気軽に読んでいただければと思う。 最初にお世話になったのは歯医者である。ある日、妻の歯の詰め物が外れてしまったため、DC市内の歯医者に行くことになった。幸か不幸か、日本にいた頃から、私も妻も歯医者で治療を受ける機会がなかったため、久し振りの、かつ日本以外では初めての、歯医者に行くのはやや不安があったが、米国の歯科医療は先進的であるという話を聞いていたため、治療を受ける良い機会とも思えた。実際、今回の歯医者ではオンレー(Onlay)と呼ばれる治療を受けたのだが、これは虫歯等でできた穴の部分だけでなく、(穴の部分を含み)歯を噛む面を覆うように白いセラミック素材を被せる方法である。一方、穴の部分だけを被せる(いわゆる詰め物に相当する)方法はインレー(Inlay)と呼ばれるそうだが、歯全体を覆うオンレーの方が歯の強化の効果が高いと言われている。いずれの場合も、白いセラミック素材(あるいはプラスチック)を使うことで、銀色の詰め物の場合と比べて「見た目」のよさは格段に良くなるが、強度や耐久性および価格は素材によってそれぞれ異なるようだ。 このオンレーによる治療では、治療する歯の「型」を取った後に、歯に被せるオンレーの部分を作るわけだが、その際に、画面上に表示されたコンピュータ・グラフィックスの歯の画面を見ながら作業が進められているのを見て、素人ながら、歯科医療も様々な技術が導入されているのだな、と感じた。しかし、後日談だが、歯の噛み合わせが若干しっくりこないため、数日後、同歯医者を再度訪れて微調整をしてもらった。歯の噛み合わせのような微妙な感覚をコンピュータだけで解決するのは、なかなか難しいのであろう。なお、今回の歯の治療では複数の保険を適用したため、自己負担額は全体の1〜2割に収まったが、それでも「痛い」出費であるので、歯も健康であるに越したことはない。 ちなみに、米国では半年に一回程度で歯の定期診断(チェックアップ)を受ける、と言われるように、歯に対する関心が高い。日本人の場合、虫歯がかなり進行するまで我慢する傾向が高いので、歯医者にかかることにはかなり費用がかかるケースが多い、という話を聞く。一方、日本では、年に一回程度の健康診断がもともと習慣化しており、さらに、メタボリック・シンドローム対策として今年の4月から特定検診の制度が導入されるなど、予防医療のための健康診断が重視されているが、逆に、米国では定期的に健康診断を行う習慣がない。日米の生活スタイルや価値観の違いもあるが、お互いの「予防医療」の習慣を取り入れてみてもよいかもしれない。 歯医者の話が長くなってしまったが、食中毒でも病院のお世話になったこともある。食中毒といっても激しい嘔吐や痛み、熱などがあるわけではなく、胃腸の具合が悪い、といったレベルの症状である。日本に一時帰国して戻った頃に症状が出たため、最初は時差ボケが原因と思っていたのだが、数か月たっても、なかなか回復しないため、何度か診察や検査を繰り返した結果、「カンピロバクター(Campylobacter)」と呼ばれる菌による食中毒であることが判明した。この菌は鶏肉が原因の場合が多いらしく、バーベキューなどで、生焼けでも鶏肉なら大丈夫といった過信はやや注意が必要のようだ。通常は子供や老人に発症するため、成人が発症するケースは少なく、これが原因の特定に時間がかかった理由でもある。ただし、原因が特定された後は、処方された薬を服用することで間もなく完治した。 なお、原因が判明した翌日頃に、自分の居住地であるArlington countyの公衆衛生部門から電話があり、感染源について心当たりがないかといった趣旨の質問を受けた。日本でも同様な事象が発生すると保健所等が感染源の特定などに対応するようだが、政府・自治体としては、このような感染症が発覚したらその原因を特定することは重要な任務の一つと言える。残念ながら、どこでどのように感染したからは結局わからないままであり、近所で同様な食中毒が発生したようなニュースも聞かれなかったので、たまたま運が悪かったのかもしれない。 最近では、半年前ぐらいにインフルエンザにかかっている。日本から我が家を訪問した義姉が感染したのが発端で、帰国直後に日本の病院でインフルエンザであると診断されたのと同時に実妹である妻が急に熱を出し始めた。夜中あたりに40度近い熱が出て、かなり苦しそうだったので、翌朝、かかりつけの医者に連絡を取り、「タミフル」を処方してもらった。その2時間後ぐらいには近所の薬局でタミフルを入手することができ、数日後は熱がおさまった。日本ではタミフル不足が話題になっていたことを考えると、すぐにタミフルを入手できたことは不幸中の幸いであるが、そもそもインフルエンザの予防注射を受けておくべきだと思った。 これらの体験で共通して言えることは、「予防」の大切さであろう。インフルエンザのような流行病に対する予防と同様、成人病に対する長期的な予防も重要である。日本では、もともと予防医学の考え方があるが、最近では、IT技術を活用し、健康器具等で測定したデータをPCやインターネット上で管理するようなサービスのニュースをよく見かける。米国でもiPodとNikeのシューズをワイヤレスで通信させ、ジョギングデータを管理するようなサービスが2年前に提供されているし、米国の医療関係者も、膨れ上がる医療費を抑えるためには、治療だけでなく予防も重要であると訴える声が大きくなっているようだ。 今後、予防医療の分野でもITの活用が期待されると思われるが、重要なのは、他人事ではなく自分の問題として捉える事、そして具体的なアクションをとることだろう。私自身は、と言えば、実はいくつか健康器具を購入してアクションに移したことがあるものの、恥ずかしながら、3日坊主だったりしている。IT技術の活用も大事だが、本人の「やる気」や「根気」も重要な要素ということだろう。ところで最近、ヨガや体操をゲーム感覚で楽しみながら行う家庭用TVゲームが日本で注目されていると聞くが、これは前述の「やる気」等の問題をIT技術で解決する試みとも言える。今度こそ長続きする「健康器具」を購入しようかと思案中だが、我が家の家計の番人から許可が得られるかどうかは定かではない。 |